2つの異なる培地でパン酵母の成長を誘電率で測定する

 

 

 

 

 

 誘電率を用いた測定では、細胞密度の変化を連続で捉えらことができます。この連続で密度が変わっていく状態を、2つの異なった培養条件

 

 を例に、誘電率による細胞密度の測定の具体的な手順について簡単に紹介します。

 

 

 

 

 素材:

 

   硬度を調整する物質: カルシウム  培地に溶かす必要があるため硝酸カルシウム4水和物を用います。

 

   培地: モルトエキスと純水(JIS A3相当) モルトエキスは食品用で流通しているものを使用し、導電率計を用いて濃度を調整します。

 

 

 

 作成した培地:

 

   作成したモルトエキスの培地を2つに分けます。

 

   一つはカルシウムを100mg/L加えたモルトエキスの培地、もう一つはモルトエキスのみの培地とします。

 

   酵母: 市販の家庭用パン酵母(小分けされたものを使用します。)

 

 

 

 測定器:

 

   細胞密度連続測定装置: セルディンシティPCランチボックス

 

   誘電率センサー: インサイトセンサー 120mm長 2セット

 

   測定ソフト: 付属するソフトウエアβチェッカーの細胞密度連続測定画面(セルデンシティートラッカー)で酵母のサイズ分布の密度を

 

          記録します。

 

 

 

 結果:

 


   測定する酵母の条件は2種類、2つの測定結果になります。今回はセルデンシティートラッカー測定画面の画像を使用し傾向を見てみます。

 

 

 

 

 

 


・使う機能

 


  細胞密度連続測定画面のスクリーンショット機能

 

 


  <ヒント>

 

  ★ ソフトの左上にあるカメラボタンをクリックし撮影します。生成された画像ファイルは自動的に測定画面の名称、日付、時刻が

 

   ファイル名となり保管されます。画面にはボタン類は写っていませんが、これは画像をレポートなどに使う際に、邪魔となる表示を

 

   画面に写らないようしています。

 


  ★ 生の誘電率データを見ることもできますが、20時間近くの17サイズの誘電率データを1分間隔で取得した場合、CSVのセルの数は

 

   20400個あり、処理する時間がかかります。このためスクリーンショットでグラフを取得できるようにしています。より長い時間

 

   の培養のデータでは、表計算ソフトが上手く動かなくなる場合があるため、PCランチボックス付属ソフトβチェッカーでは処理負担を

 

   軽くするため、測定画面にワンタッチスクリーンショット機能が付けられています。

 


  ★ ソフトはビューワー機能が付いており、保存した誘電率記録(CSVファイル)から測定画面と同じようにグラフを再生することができます。

 

   画面の機能もそのまま使えます。

 

 

 

 

 

 

 

・実際に取得された画面

 

 


                     モルトエキスのみの培地での成長の軌跡

 

  

 

 

 

                  モルトエキスにカルシウムを加えた培地での成長の軌跡

 

  

 

 

 

 

 

 

 

・画面の情報を見る

 


  画面は大きく分けて3つで作られています。

 

    左側:密度分布の傾向変化を観察するためのトレンドグラフを表示します。

 

    真ん中:最新の測定値におけるサイズごとの個数比率をバーグラフ表示します。

 

    右側:任意の基準値(トレンドグラフのの時間の測定値)に対し、最新の測定値と比較した結果を%増減率で表示します。

 


  <ヒント>


  ★ グラフ領域


    左側は密度変化のトレンドグラフで、最も大きな領域を占めます。グラフの上には表示領域を時間で決めるスライダー機能が見えます。

 

    これで好きな時間帯のみを表示させることができます。基準値はを任意の時間に移動し調整します。

 


  ★ 密度バーグラフとサイズフィルタリング


    グラフの右にはサイズ密度のサイズの大きさを表す色のついた17個の○とその右側に密度バーグラフが表示されています。

 

    17のサイズそれぞれの密度を表示する一方、必要なサイズのみを残し、他のサイズを隠すこともできます。この場合サイズ密度比率は

 

    自動的に選択されているサイズで計算し直します。

 


  ★ 密度の増減


    基準に対しての密度の率を百分率で表示します。基準はグラフのオレンジのカーソルで任意に設定できます。モルトエキスのみの培地では

 

    酵母を入れてから13分後を基準としています。またカルシウム入りは14分後としています。

 

 

 

 

 

 

・トレンドグラフ

 

 


    モルトエキスのみの培地での酵母密度分布連続測定          カルシウム入りの培地での酵母密度分布連続測定

 

 

 

 

サイズの分布に差が出ています。(オレンジの矢印の位置)

 

  成長の領域の選択

 

    オレンジの矢印で示す層以下の領域を中心に見ることにします。

 

 

 

 

 

 

 

・最新のサイズと個数の分布の割合:観察領域の絞り込み

 

 

  バーグラフで最新のサイズと密度の分布を確認します。

 

  下の画像の左:モルトエキスのみ、右:モルトエキスにカルシウムを加えた時の各サイズと、サイズごとの密度分布のバーグラフです。

 

  密度でオレンジの丸で囲んだ水色の領域(直径2.9μ以下)は最小の大きさの密度測定データになります。この部分は今回は測定対象から

 

  外します(胞子になるまで見る場合は必要となります)。

 

  水色の領域以外で、密度が高くなっていく領域で、酵母の大きさがオレンジの四角枠の範囲(5.3μ、5.8μ、6.3μ、6.8μ、7.3μ)を基準に、

 

  その領域の成長を見ることでカルシウムによる差を確認します。またそれに合わせトレンドグラフの縦軸の範囲を設定し直します。

 

 

    ステップ1 領域を選択するため、オレンジの線で囲まれたサイズ以外をクリックし隠します。

 

    ステップ2 トレンドグラフ縦軸をクリックし、範囲を20に変更します。

 

 

   <ヒント>


   ★ 円の大きさ


   円の大きさは細胞あるいは酵母の大きさを球体としてみた場合のものです。これは測定原理上と細胞の形等に基準はないため球体換算としています。

 

   このため寸法は誤解を招くため表記していません。基準となる大きさは実際に寸法を測定し、その分布と比較し換算するようにしてください。

 

   なお目安として以下のような寸法となっています。2.9μ以下の密度換算はそれ以下のすべての大きさの酵母等の誘電率を一律2.9μに換算しています。

 

   このため正確な密度にはなりませんが、傾向は現れます。

 

     細胞直径(目安) 2.9μ以下、3μ、3.3μ、3.6μ、3.9μ、4.2μ、4.5μ、4.8μ、5.3μ、5.8μ、6.3μ、6.8μ、7.3μ、7.8μ、8.3μ、8.9μ、9.4μ

 

 

 

   モルトエキスのみの培地での最新の酵母のサイズ分布密度       カルシウム入りの培地での最新の酵母のサイズ分布密度

 

                       

 

 

 

 

    

選択した範囲の密度変化:モルトエキスのみの培地での密度変化

 

 

 

選択した範囲の密度変化:カルシウムを加えた培地の密度変化

 

 

 

 

 

 

 

 

・結果

 

 

     1)選択範囲の大きさの酵母の増殖の比較をした結果、モルトエキスのみでは植種後の基準値に対し+108%(約2.08倍)まで増えました。

 

     2)カルシウムを添加した培地は基準に対し+150.2%(2.50倍)増えました。

 

     3)カルシウムを足したものはモルトエキスのみと比較した場合、密度が20%高くなる傾向を捉えることができました。

 

 

 

 

 

 

  誘電率方式について

 

   誘電率方式の良い点は手軽に増殖のトレンドを、細胞あるいは酵母の閉じた膜が作り出す電気信号の変化から観察することができます。

 

   また連続で計測することで得られる微小な世界が生み出す膨大なデータは、その取り扱いも課題になります。その課題に対し、

 

   ハミルトン細胞密度連続測定装置専用ソフトウエアはトレンドデータをグラフにリアルタイムに変換していますが、画像としてのデータとして

 

   簡単に記録できるよう工夫しています。また過去データからトレンドを再生する機能も備えています。また最大4chまでのセンサーの接続を行え、

 

   異なる条件の培養をリアルタイムに観察できるよう設計されています。

 

 

 

 

  サイズ密度変換ソフトウエア セルデンシティートラッカーについて


   誰もが簡単に増殖の傾向を知ることができるようにする。現代の電気化学の技術と細胞を電気的に捉える発想から実現されたこの測定器は、

 

   他の測定器同様万能というわけにはいきませんでした。また細胞という生きた対象を捉えることは物理的化学的性質を捉えることとは全く別の

 

   考え方が必要でした。特に周波数と細胞のサイズの関係は誘電率方式では特徴的な性質のため、それをわかりやすい形へと変換するソフトウエア

 

   開発を、ハミルトン社の協力をいただき行ってきました。結果、今回使用しているサイズ密度変換ソフトウエアはハミルトン社が製造する

 

   細胞密度連続測定装置に提供されるもので、日本市場向けとして3年の期間を経て当社で独自に開発したものです。

 

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